綺羅星のごとく歌は輝く
今夜は「照和伝説」の夜。
僕はギターの調子が悪いので(まあ、腕の方がもっと悪いんだけどね)楽器屋さんに持
って行こうと思い立ったが吉日。でも時間がなくて行けなかった。
結局楽器屋に寄っていると間に合わないと判断した僕は、今日もジョーさんと高畑のバ
ス停で待ち合わせてお店に向かった。
実は僕は昨夜、徹夜だったんだよん。
朝まで時間に追われ。夜が明けてからあちこち走り回った。
頭がぼんやりして来てすごく不安なLIVEの朝だった。今、思い出しても恐い。
しかも今日は新しい歌を歌うつもりでいたからなおさら心配だったんだよ〜。
曲が出来たのは三日程前だからまだ歌い込んでいないし、そのうちの一曲はテンポが
早くハイポジションのコードが次々と変わって、全然覚えられんゾ!てな感じの曲だ。
歌詞も毎度の事ながら歌詞カードを見ないと歌えない僕。
僕は歌詞カードを見ずに歌っている人をみると、尊敬してしまうくせがある。
レベルの低さと腰の低さにかけては、結構人から指摘を受ける。
本気で覚えたいと思う、自分で作った歌詞ぐらい。
かつて役者担当涙銀子の時は、ひとり芝居で二時間足らずの舞台の大量
の台詞を覚えら
れた訳だから不可能では無いはず。なのに・・・何故?
僕は「不安がり」なのであろう。新しい言葉を発明しつつ、僕はそう思った。
で、今日のお昼過ぎ、一瞬時間が開いた時にもう一度新曲を歌ってみた。
ぼろぼろであった。コードを追い掛けてギターを弾いていると歌詞を間違えた。
歌詞を必死になって追い掛けているとギターが全然弾けなくなった。
昨日、練習した時はこんな事はなかった。
もう少し、まともに弾けて歌えたのだ。徹夜のせいに違い無い。
試しに、もう何度も歌っている「さそり座の怪人」を歌ってみようと試みた。
いきなりイントロのコードが全然違った。・・・・・・睡眠を取る事に決めた。
でも、時間がないので近くにいたいちごさんに「二十分後に起こして」と頼んで
床に横になった。「フトンで寝なさい」と叱られたが、フトンに行く数秒が惜しかった。
正味、十五分程寝て起きたら、さらに頭がぼんやりさんになっていた。
ギターを弾いてみた。少しマシになった気分がした。
ふらふらとギターを担いで地下鉄に乗った。頑張らなくちゃ!
頭が働いていないせいか、もう「照和伝説」に着いた。
何と!今日は出演者が多いぞ!七人もいるど!
僕は心を引き締めた。え?・・・みんなに負けないように?
ちがうよ ・・・絶対にMCを短くしなきゃ、って心に誓ったんだ。
何だか「照和伝説」のお店の中にたくさんの人がいてとても楽しい雰囲気。
嬉しくなってきた。
今日の出演は池田利明さん。桑山弘好さん。 倉谷梨里さん。村松愛子さん。hiroさん。
大嶋芳さ・・・・ん?ロメリスタ大嶋さんがいるじゃ無いか!こ、これは・・・・・
・・・・一層、気を引き締めてかからねば・・・・。
そう言えばさっき僕が「照和伝説」に着いた時に、道ばたでギターを弾いている不審な
人物に出会った気がしたが・・・・もしかして、あれが?気をつけろ・・・。
そういえば相方の池田さんは?大嶋さんと一緒にさせると僕の身が危ない。
おや?池田さんは遠くの席でどなたか爽やかそうな青年と話してるぞ?手招きをされた
ので近づいて行ったら、何とその爽やか青年は西川原誠さんであった!毎週日曜日に
「照伝」に出演し、最近「池ちゃんとクルッターズ」に拉致・・・いや、抜擢されたと
噂に聞いていたミュージシャンであった。初めまして。
別のテーブルでは桑山さんと村松さんが話しているし、倉谷さんが音合わせの準備をし
てるし、やがてふらりとhiroさんが現れるし。何だかミュージシャンの巣窟だぞ。
ここできっと今、何かが動き始めているんだよね。そう思わせる雰囲気だ。
さて、頭がぼんやりしているせいか、もうステージが始まった。
トップはhiroさん。僕は初めて聞かせて戴いた。自然体の穏やかなトークと柔らかい曲
で存在そのもので安らがせてくれる。そんなミュージシャン。
二番手は倉谷梨里さん。最近、毎週歌を聞かせて戴いて、普段の僕の心の中にこの人の
曲がとても深いところに横たわっていてくれる。とてもピュアな心と声。
次は桑山弘好さん。僕は聴かせて戴くのは二度目だ。軽快な曲から深く突き上げてくる
曲まで幅広い曲を歌う人。気合いを感じます。自己紹介の仕方が面白い。
次が村松愛子さん。僕は前回この人の歌を聴かせてもらって、僕の大好きな方向だと感
じていた。彼女の歌は胸を打ってくる。後でそっと「僕、山崎ハコさんが好きなのです」
と言ったら、やはり彼女も好きだった。やっぱり!村松さん、声もすごく良くて聴かせ
ます。
そして、次はロメリスタ大嶋さん。久しぶりに見る彼の僕をいたぶっていない姿・・・
・・・いやいや・・・そうじゃなくて、久しぶりに聴く名演奏。静かな語りと華麗なテ
クニック・・・何で、あなたはそんなにすごい人なの?
でも、僕は実はもう不安で仕方なかったんだ。次の出番が僕だから。頭、ぼんやりだし。
だから、大嶋さんの二曲目あたりで楽屋へ。ちょびっとでも不安を消す為に。
でも、楽屋に聞こえてくるのは大嶋さんの曲の合間のトーク。「・・・で・・・ギンコ
・・・ですから・・・・さそり座で・・・」おいおい、何を話しとるんじゃ!
思わず、ステージ側の壁に耳を押し付けて聞き続け、何を話されてるのかムチャクチャ
不安。
いかん!僕はこんな事をしている場合じゃない。新曲を・・・・ボロボロじゃんかあ!
か、帰りたい・・・・。新曲は止めるべきだ、これは。
でも、僕はこういう時、いつも選ぶ方向は逆なのだ。だからこそ、やるべきじゃ!と。
ここで止めたら、自分に記憶が残る。これがうざったい。精一杯、心を込めてやり切る
べきだ!
池田さんが楽屋にやってきた。
最近気が着いたのだけれど、池田さんと楽屋で二人で話す時はすごく真剣な話が多い。
ここに第三者が入ると、彼は一変して楽しい会話に切り替え、しょうもない話の連続
攻撃を仕掛けてくる。
でも、二人で、特に楽屋での会話はシリアスだ。
あまり、シリアスな素顔をバラすと彼のファンの人が戸惑うといけないので、ここでは
詳しくは話さずいつもの変な人というイメージを大切にしておこう。
いずれにせよ、音楽とそれを聴きに来てくださるお客様、そしてミュージシャンの事を
本気で愛してくれている人だと言う事ははっきりしている。
いつもはあまり書かないruiのステージについて書く。
チューニングがひどかった。以上。
あ、あと、僕が時計代わりにしている携帯電話に今日も電話とメールが本番中に入った。
きっとあの人だと思った僕は、今日始めて曲の合間に着信者の履歴を暴いてあげた。
「大嶋芳」と大きく表示された名前。その名前をお客様に言い付けている内に、さらに手に
持った携帯がブルブルと震え、メールが届いた。メールの文面は「早く歌え」だった。
MCが今日も長過ぎたらしい。
さて、総勢七人のミュージシャンのステージ。ラストを締めるのはやはりこの人、
池田利明さん。僕のステージが、がちゃがちゃで全然落着かなかったのに対して、こちらは
本当にしっとりといいステージだった。
僕は池田さんの歌を毎週ナマで聴く事ができる。その中で「歌」がどんどん表情を変えて
ゆく過程に出会える。
「梓川」という曲はいろいろな表情を見せる。緩やかに心に流れ込んできたり、希望を感じ
させてくれたり・・・。すごく大きな歌だと思う。
「はるかなる夢」という曲は毎回毎回どんどん深くなってくる。今日はギターを止め、声だ
けで歌が始まった。ラストに向けて歌詞も曲も本当にはるかな彼方まで広がりをみせる。
歌はやはり生きている。
そして「愛の陽だまり」この曲を聴きながら僕はいつも何かで心が一杯になってしまう。
何だろう?様々な事が心をよぎる。そして僕の心は、知らないままでいた事や忘れかけてい
た事を思い出し、探りはじめる。歌は人を変えてゆくと思う。
今夜もいつもと同じく素敵で、一度きりしかない大切な夜が終わった。
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