2004.01.15 Thu.
rui★ginko 故郷に帰る
国境の長いトンネルを越えると雪国だった。
寒いので引き返そうとしたが、電車に乗っていた私には叶わぬ願いであった。
雲を追い越し、雪をかき分け、ただひたすら電車は西へ西へと・・・
街を抜け、河を渡り、 時空をも越えて、幼い頃の私の記憶が目覚めるその先にはたして何が待っているのか・・・
<rui★ginko、故郷に帰る>
例によって寝坊した。
今日は私の生まれ故郷、S県の県境に位置するS町に帰省する日であった。
目覚めたら十一時半。きっぱり帰るのをやめようかと思った。
こういう事もあろうかと、私は今朝のこの時まで、実家に帰る旨を伝えてはいない。オノレを知る男であった。
しかし、そういう訳には行かない。ここで帰らなくてはまた来年まで帰れない私であろう。
とりあえず、起きてみようと思った。
トーストに練り歯磨きを塗って食べ、時間を節約した。
何を持って行くべきなのか頭が働いていないので手当たり次第に鞄に詰め込んだ。重かった。
しかし、私の心はすでに故郷に向かっていた。
幼い頃、もう少しマトモな大人になっているはずの自分の姿を夢見ていた、あの街に。
取りあえず実家に電話をした。
もしも帰って、家族が出かけて留守だったら泣いちゃう可能性があるからだ。
受話器の向こうから母の声がした。
「何?帰ってくるの?何時に着くの?」
おお・・・・・・どうやら泣かずに済みそうだ。「う〜ん、一時くらいかな?」
頭の回っていない私は適当に答えた。今、十二時なのに・・・。
慌てて部屋に入って、出かける前に、ケーブルテレビの引っ越し手続きの書類を書き
メールを返信し、ホームページを確認し、仕事の予定をチェックし、ロールケーキを食べずに家を出る頃には
十二時をとっくに回っていた。
故郷はなかなか遠いものであった。
名古屋駅に着いたら一時発の電車しか無かった。家に電話をした。
「今、駅」「着いた?」「名古屋」「名古屋ァ!?」「すまん」
母は私の、このペースに慣れている。
名古屋駅は寒かった。
もしかしてこの調子じゃ、田舎は雪かも・・・まさかね。
電車がホームにすべりこんで来たので乗り込んだ。
今日の運転手さんは二人もいた。豪勢な旅だ。
二人とも何かを指差して叫ぶ癖があったので、ちょっぴり不安だった。
「あ、あそこ、寄ってかない?どうですか?お客さん」
私は断った。「まっすぐふるさとに向かってくれ」
「・・・わかりました」
少し、寂しそうだった。
「Hey! あの赤い電車と競争だいっ!」
「・・・まっすぐに、私を生まれ故郷に連れて行ってくれたまえ」
「はい」
「わ〜い。鉄橋だ、鉄橋だ〜。」
「ガタンガタンガタ〜ン・・・ポッポ〜!」
「おらっ!」
「・・・失礼しました」
「すいやせんネ。こいつ新米なもんで・・・。
最近、どうですか?お客さん。景気の方は・・・」
「君たちは黙って運転できないのかね」
「すんません! おっ、そろそろ大垣に着きますぜ。」
「はい、大垣に到着いたしました。またの御乗車・・・」
「君たちの運転は嫌だ」「はい」「へい」
少し寂しそうだった。
大垣で乗り換え。さて、乗り換えるか。